国際連語論学会設立大会プログラム2日目
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- 日時
- 2013年2月10日(日)午前9時00分より午後6時05分まで
- 会場
- 大東文化会館ホール 設立大会参加費:2日間500円(会員、非会員共通)
※当日入会申し込み、学会費の納入も受け付けます。(年会費:社会人2000円、院生1000円)
プログラム
受付(9:00-) |
総合司会 長野由季((株)ヒューマンサービス) |
開会の辞 | 鈴木泰(専修大学) | 9:10-9:20 |
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研究発表1. | 逆接条件文における主観性についての研究 -ニモカカワラズを中心に- 孫宇雷(大東文化大学大学院博士後期課程) | 9:20-9:55 |
研究発表2. | 無対他動詞と使役について 汪然(北京大学大学院博士後期) | 9:55-10:30 |
以上司会 小高愛(千葉大学) |
休憩 15分(10:30-10:45) |
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研究発表3. | 文の語意に基づいた現代中国研究 ―「とりつけのむすびつき」「とりはずしのむすびつき」を例に― 神野智久(湖南大学) | 10:45-11:20 |
研究発表4. | 「ねじれ」から見た離合詞の性質 石井宏明(東海大学・東洋大学非常勤) | 11:20-11:55 |
研究発表5. | 疑問指示と不定指示の統一的分析 王慶(九州外国語学院) | 11:55-12:30 |
以上司会 竹島毅(大東文化大学) |
昼休み 60分(12:30-13:30)※近くにレストラン多数あり |
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シンポジウム:連語論研究の過去と現在と未来 鈴木泰(専修大学教授) 彭広陸(北京大学教授) 高橋弥守彦(大東文化大学) | 13:30-14:45 |
研究発表6. | “过”の「通過のむすびつき」と「移りのむすびつき」について 佐々木俊雄 (北京大学博士後期課程) | 14:45-15:20 |
研究発表7. | 「~関係がある」構造とその意味について ―中国語との対照研究を視野に- 白愛仙(明星大学 非常勤講師) | 15:20-15:55 |
以上司会 王 学群(東洋大学) |
休憩 15分(15:55-16:10) |
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研究発表8. | 空間的・時間的範囲を表す複合助詞について ―「にわたって」「を通じて」を中心に― 劉笑明(天津外国語大学) | 16:10-16:45 |
研究発表9. | 「ところをみると」と共起するモダリティ諸形式 戴宝玉(越秀外国語学院) | 16:45-17:20 |
研究発表10. | 名詞的な連語から名詞へ 彭 広陸(北京大学) | 17:20-17:55 |
以上司会 上地宏一(大東文化大学) |
閉会の辞 | 高橋弥守彦(大東文化大学) | 17:55-18:05 |
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発表要旨
研究発表1. 逆接条件文における主観性についての研究
-ニモカカワラズを中心に-
孫宇雷(大東文化大学大学院博士後期課程)
ニモカカワラズの担う逆接条件文の前後件関係について、先行研究は①後件は現実である②後件は前件の当然な結果としてそのまま文を受け続くことではない③前件に世間的・常識的予想や期待が含意されているにまとめているが、本研究の考察を通じて、前後関係には①<事実叙述>ニモカカワラズ<原因・理由>/<事実叙述>②<事実による推定>ニモカカワラズ<仮に実現すること>/<可能・推量>/<疑問>③<常識的な判断>ニモカカワラズ<事実・結果>④<仮定事実>/<考え>ニモカカワラズ<心理的評価>のような、四つのタイプが観察された。以上の内容により、先行研究と不一致していて、解決できない問題を主観性の方法で再解釈へ試みることにした。結論にイメージスキーマ構図作業をして、その解釈に「ニモカカワラズが担う逆接条件文の前後関係は、そもそも独立している客観事実AとBとの間に、<人>の主観性視点を置き、AとBを関連付け、前後件を逆接条件の論理的関係を成させる」とまとめた。
研究発表2. 無対他動詞と使役について
汪然(北京大学大学院博士後期)
本稿では無対他動詞の形態的な性質をまとめてみる。小泉保他(1989)の『日本語基本動詞用法辞典』から代表的な146語を選別し、意味的な分類を作ってみる。この146語について、非単語中心的なアプローチで、有対他動詞が使役のような意味をもつという認識から、無対他動詞と使役の関係を大まかに描き出したい。そして、無対他動詞の使役はどんな意味的な性格をもっているか、また、有対他動詞の使役に比べると、無対他動詞の使役はどんな意味的な特徴をもっているかを、明らかにすることを目的とする。使役動詞と無対他動詞の交替をも本考察に納めたい。
研究発表3. 文の語意に基づいた現代中国研究
―「とりつけのむすびつき」「とりはずしのむすびつき」を例に―
神野智久(湖南大学)
ある動作や行為を言語で表現する際、一般にその動詞と繋がりのある成分が付随される。例えば、「食べる」という動作を表現するとき、「りんご」や「パン」と いった、食べる対象が必要となる。他にも、「置く」という動作を表現するには、「本」や「バッグ」といった物体の他にも、その移動先である「場所」が必要 である。動詞に付随する成分を、一般には言語学では項と呼び、連語論では、カザリ名詞と言う。
中国語文法は研究されて久しい。どの動詞にどのような項(カザリ名詞)が必要なのかという研究範囲は、中国語文法では“配价”と言われ、動詞とその必要項はほぼ明らかにされているといってもいいだろう。しかしながら、実際の言語環境において、動詞とその項(カザリ名詞)がどのように組み合わせれているか、またどの組み合わせが最も多いのかといった、統計的なデータは未だ得られるに至っていない。これはつまり、「壁に絵をかける」という連語ひとつをとっても、文の中では「絵を壁にかける」とも「絵をかける」とも表現できて、多様な変化を見せることは明らかになっているが、統計的なデータは取られていないということである。
そこで、本発表では鈴木康之(2011)にある「とりつけ」を基に、各表出類型を抽出し、分析を加える。
研究発表4. 「ねじれ」から見た離合詞の性質
石井宏明(東海大学・東洋大学非常勤)
動詞+目的語{V+O}の離合詞はVとOの間に名詞を挿入し、{V+N+的+O}の形をとることができる(“见面”-“见他的面。”“上当”-“上他的当。”)。これらの離合詞を構成する成分の結びつきを見ると、“见面”は“见”(見る)のは“他”(彼)の“面”(顔)であり、“上当”は上(乗って)しまうのは“他”(彼)の“当”(ぺてん)であり、OはNに属するものであり、何ら問題はない。しかし、“生气”-“生他的气。”“吃亏”-“吃他的亏。”などの例を見ると、生(生まれた)气は他(彼の)ではなく、吃(食う)亏(損失)も他(彼の)ではなく、{V+N+的+O}の形ではあるが、離合詞を構成する成分の結びつきが「ねじれ」ている。本論では仮にこの種の離合詞を「ねじれ」離合詞と呼び、この「ねじれ」離合詞の語素VOの語の結びつきを連語論の方法を用いて検討し、さらにこれら「ねじれ」離合詞がどのような介詞を伴うのかを検討し、「ねじれ」離合詞の性質を考察し、その観点から離合詞全体の性質について考察することにする。
研究発表5. 疑問指示と不定指示の統一的分析
王慶(九州外国語学院)
“疑问指称词”(以“谁”为例)具有疑问的用法,这是汉语母语者公认的语法功能。但是,正如吕叔湘(2002)等中指出,除了表示疑问以外,疑问指称词也具有“无定指称词”功能,并且可以细分成“任指”和“虚指”两种用法。只是,究竟什么是“任指”,什么是“虚指”,以及,它们与疑问用法之间有什么联系,至今为止,研究的很少。本发表试图从认知语言学的角度分析所谓的“疑问指称词”的多样的用法,并结合语法结构中常用的“都”、“一起”,以及句末语气词“吗”、“呢”等进行综合判断。
研究発表6. “过”の「通過のむすびつき」と「移りのむすびつき」について
佐々木俊雄 (北京大学博士後期課程)
中国語の位置移動動詞“过”の基本義を「通過」と捉えるならば、何を過ぎるかということに関して参照点が必要となるが、参照点となり得る客体が存在しない例、客体が身体名詞である例、客体が着点を示す例、などの実例が存在することに加え、通過の方式が複数考えられる用例も見受けられ、その意味機能を正確に述べることは容易ではない。
- 过一下。(ちょっとどけてください。)【客体なし】
- ……突然转过身子,坐在窗台上,……。(……、くるっと向き直って、窓に腰を下ろすと、……。)【客体:“身子”(身体部位名詞)】
- 我们过那里吧。(あちらに行きましょう。)【客体:“那里”;着点】
- 那个,我刚过北大西门儿。(えっと、たった今、北京大学の西門を過ぎたところです。[くぐったところです])【客体:“北大西门儿”;参照点の通過または枠内名詞における境界点の通過】
- 我们过马路吧。(道路を渡りましょう。)【客体:“马路”;実際に道路上を横切る、歩道橋を歩き道路を渡る、地下道をくぐり道路を渡る、の3つの移動方式が考えられる】
本発表では、“过”がどのように通過義および着点義を獲得するのかということについて、客体成分の特性および参照点の在り処に着目して考察を行う。
研究発表7. 「~関係がある」構造とその意味について
―中国語との対照研究を視野に-
白愛仙(明星大学 非常勤講師)
日本語の「~がある」構文においては、「寿命は食生活と関係がある」、「睡眠と美容は深い関係がある」のように、「が格」名詞が「関係」の場合、「~は~と~がある」構造、又は「~と~は~がある」構造が規定される。中国語の“有”構文においては、“健康与饮水有关系”、“睡眠与美容有关系”のように、“有”の目的語が“关系”の場合、「主語+介詞連語+“有关系”」構造が規定される。介詞連語は“与、跟、和、同”などの介詞を伴う傾向がある。これらの構造における“有”は、程度副詞“大、很、极、非常”を伴うことが可能であり、助詞“着”を伴うことも可能である。そして、“有关系”は日本語の「関係がある」と対応する場合もあれば、「関係している」と対応する場合もある。
本発表では、日本語の「~は~と~関係がある」構造、「~と~は~関係がある」構造における「~は」と「~と」の生命現象と影響要因、問題と原因などの意味関係に注目して、中国語の「主語+介詞連語+“有关系”」構造との対応関係、及び日本語の「~関係がある」構造と中国語の「主語+介詞連語+“有关系”」構造の意味とその構造の特徴を分析する。
研究発表8. 空間的・時間的範囲を表す複合助詞について
―「にわたって」「を通じて」を中心に―
劉笑明(天津外国語大学)
日本語において「にわたって」、「を通じて」のように、空間的範囲を表すとともに時間的範囲をも表しうる。空間的・時間的範囲を指し示す複合助詞「にわたって」、「を通じて」はニ格、またはヲ格の名詞部分は具体的な空間・時間を表す名詞に限られ、述語部分はその間に継続する動作・状態が差し出される。そのうち、「XにわたってY」にはYという行為や状態の続く時間Xが長いこと、またはその続く空間が広いことを示唆しており、話し手の評価が含まれ、評価の意味合いに重きが置かれる。「Xを通じてY」にはXの期間内または空間内で途切れることなく、ずっとYという状態や性質を有する。すなわち、Yという状態や性質に変化がない。話し手の評価を含まず、後続要素Yに重きが置かれる。二形式は同じように空間的・時間的範囲を表すが、互いに置き換えにくい。二者は同一形式で「空間的範囲」と「時間的範囲」を表すのはもとの動詞「わたる」「通じる」の意味から拡張・転成されたものである。
研究発表9. 「ところをみると」と共起するモダリティ諸形式
戴宝玉(越秀外国語学院)
ノダについて近年多くの研究が重ねられ、共通の認識もできつつあるように思われる。
筆者は、日本語のすべての文を、判断の素材となる文とその素材文をもとにした判断の文と分類し、前者を一次情報を扱う文、後者を二次情報の文と呼ぶ。そして、二次情報を担うには、独特に文末形式があり、ノダは二次情報に与る有力なモダリティ形式とみる。
コーパスから多くのノダ文を収集すると、次のような文の存在に気づく。
煙突がないところを見ると、たぶん暖房の設備もないのだろう。(「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」)
この「ところをみると」はすでに一語化し、これを一次情報のマーカーとし、それと共
起する述語にどんなモダリティ形式があるかを調査してみた。なお、ノダのさまざまなバリエーション(ノダ、ノカ、ノダロウ等)をすべてノダで代表させ、上位18形式を次表にまとめた(全部で535例)。
この表から、
- ノダはすべて「ところをみると」を必要とするわけではないが、「ところをみると」と共起する多くの表現形式の中でもっとも有力な形式であること。
- 「ところをみると」という共通の土俵に載せることによって、これまで多くの論考があったラシイ、ヨウダ、ソウダも実は二次情報を担う形式であろうこと。
- すくなくとも説明というモダリティにおいて、表のゼロが47例もあることから、モダリティ形式が必ずしも必要不可欠ではないこと。(例:「これで笑わなかったところをみると、この女はかなりの鈍物である。」)
- また、二次情報を担うモダリティ形式は多くの動詞によっても可能であること。
以上のことから、このような独自の視点から、ノダの研究も含め、広く一般にモダリティ研究にあらたな道が開かれるのではないかと期待できるかもしれない。
なお、ある言語がこのような二次情報を担う特殊のモダリティ形式をもつかどうかの研究が欧米で行われており、日本語と違って、中国語と英語にはそのような形式がないことが報告されており、ノダの習得が外国人にとって困難であるゆえんである。
(表を省略して掲載しました)
研究発表10. 名詞的な連語から名詞へ
彭 広陸(北京大学)
現代日本語の名詞には、名詞的な連語に由来するものがある。その中には、一部ながら「名詞+連体格助辞+名詞」という構造によるものもある。古代日本語は現代語と違って、連体格助辞が発達しており、バラエティーに富んでいた。例えば、「うおのめ(魚の目」・わがはい(我が輩)・たなごころ(掌)・くだもの(果物)・しもつかた(下つ方)」などを挙げることができる。こういったものは、通時的に見れば、特定の概念を表すようになるにつれて名詞的な連語から名詞に変化したものと考えられる。
本発表は、『新明解国語辞典』(第5版)に収録されている単語を調査の対象にし、「名詞+連体格助辞+名詞」というパターンの名詞を抽出した上で、それぞれ異なる連体格助辞による名詞の結びつきのタイプを分析することを目的とする。